神戸地方裁判所姫路支部 昭和42年(ワ)285号 判決 1969年8月11日
本訴原告・反訴被告
松下徳治
ほか一名
本訴被告・反訴原告
岩田熊夫
ほか一名
主文
本訴被告両名は、各自、
(1) 本訴原告松下徳治に対し、金三七五、〇八九円とこれに対する本訴被告岩田熊夫においては昭和四二年九月一日から、本訴被告焼山善生においては同年同月三日から完済に至るまで年五分の率による金員
(2) 本訴原告松下恵美子に対し、金一〇〇、五九七円とこれに対する本訴被告岩田熊夫においては昭和四二年九月一日から、本訴被告焼山善生においては同年同月三日から完済に至るまで年五分の率による金員
を支払え。
本訴原告両名のその余の請求を棄却する。
反訴被告は、反訴原告に対し、金五〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四三年一〇月一六日から完済に至るまで年五分の率による金員を支払え。
反訴原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、本訴および反訴を通じ、
(1) 本訴原告・反訴被告松下徳治に生じた費用の三分の一を本訴被告・反訴原告岩田熊夫および本訴被告焼山善生に連帯負担させ、一〇分の一を本訴被告・反訴原告岩田熊夫に単独負担させ、
(2) 本訴原告松下恵美子に生じた費用の二分の一を本訴被告両名に連帯負担させ、
(3) 本訴被告・反訴原告岩田熊夫および本訴被告焼山善生に生じた各費用の五分の三ずつを本訴原告・反訴被告松下徳治に負担させ、一〇分の一ずつを本訴原告松下恵美子に負担させ、
(4) その余を各自に負担させる。
事実
昭和四〇年一〇月一〇日午後三時頃、姫路市書写横関一、一五九番地先、横関橋東詰道路交差点において、この橋を西から東に渡り切つて右折南進しようとした原告松下徳治運転、原告松下恵美子同乗の普通乗用自動車の右側面と、この交差点に向い北進して来た被告岩田熊夫所有、被告焼山善生運転の普通貨物自動車の前部とが衝突し、原告徳治は、治療期間三箇月を要する頭蓋骨々折、肋骨々折兼気胸の傷害を蒙り、治療費二九、三五八円の出損を余儀なくされ、双方の自動車が損傷した。右貨物自動車は、被告岩田が建築材料販売業を営んでいる関係上自己のため運行の用に供していたものであり、被告焼山は、被告岩田に雇われ、同被告の業務の執行として右自動車を運転していたものである。
なお、原告徳治は、右事故により、自動車損害賠償保険金二二〇、七八〇円を受領している。
以上の事実は、当事者間に争を見なかつた。
原告らは、本訴として、被告岩田熊夫に対しては昭和四二年八月三一日、被告焼山善生に対しては同年九月二日送達された訴状に基き、
「被告らは、各自、
(1) 原告松下徳治に対し、金一、三四七、九七〇円とこれに対する被告岩田熊夫においては昭和四二年九月一日から、被告焼山善生においては同年同月三日から完済に至るまで年五分の率による金員
(2) 原告松下恵美子に対し、金二〇一、一九四円とこれに対する各被告において右それぞれの年月日から完済に至るまで同率による金員
を支払え。」
との判決と仮執行の宣言を求める旨申し立て、
次のとおり述べた。
「本件の衝突事故は、原告らの乗つている車が被告善生から見て左方の道路からすでに前記交差点に入つているにもかかわらず、同被告が、前方を注視せず、道路交通法第三五条所定の左方車両優先の原則を無視し、毎時五〇キロメートル以上の高速で、中央線より右に跨つた進路をとり、右交差点に突入するという無謀な運転方法をとつたため、約九メートルのスリップ痕を残し、すでに右折を終りかけた原告らの車の右側面に激突し、これを押しやつて、発生したものである。そのため、原告徳治のほか原告恵美子も負傷し、自動車も破損したので、原告は、後記のとおり損害を蒙つた。それ故、同被告は、不法行為者として右の損害を賠償すべきものである。また、被告岩田も、その使用者として、右の損害を賠償する責に任じなければならない。
原告松下徳治が右事故によつて蒙つた損害は、左記のとおりである。
(一) 医療費(前述) 二九、三五八円
(二) 入院中の諸経費
昭和四〇年一〇月分
氷代 二、六四〇円
栄養費 二一、〇八〇円
電話料 五、六五二円
交通費 二九、七〇〇円
ふとん、毛布、タオル、寝巻、下着類 二四、二七〇円
留守依頼人料(二一日分) 二四、七〇〇円
諸雑費 二四、三九〇円
同年一一月分
氷代 一、七二〇円
栄養費 一六、五四〇円
電話料 三、〇七〇円
交通費 二五、二〇〇円
留守依頼人料(二八日分) 二九、六〇〇円
付添料 四七、〇〇〇円
諸雑費 三六、八三〇円
以上小計 二五二、三九二円
(三) 退院後付添料 五五、〇〇〇円
(昭和四〇年一一月二八日から昭和四一年一月二日まで)
(四) 休業による収入減
(外峰金属株式会社より受けるはずであつた給料)
昭和四〇年一〇月分 二七、六〇〇円
同年一一月分 三六、〇〇〇円
同年一二月分 三七、二〇〇円
昭和四一年一月分 三七、二〇〇円
同年二月分 三三、六〇〇円
同年三月分 三七、二〇〇円
同年四月分 三六、〇〇〇円
同年五月分 三七、二〇〇円
以上小計 二八二、〇〇〇円
(五) 自動車の破損による損害 四五〇、〇〇〇円
(昭和三九年一二月二三日購入のプリンスグロリア六二型が大破し、廃車となる。)
(六) 慰藉料
同原告は、幸い一命を取り止めることができたが、一時は生死の程も判明せぬ頻死の重傷であつた。これによる精神的損害を償うためには、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当とすべきである。
そこで、以上の合計額は、一、五六八、七五〇円となるが、同原告は、すでに本件事故により自動車損害賠償保険金二二〇、七八〇円の支払を受けているから、本訴においては、被告らから同原告に対し、各自、残額一、三四七、九七〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定率による遅延損害金を支払うべき旨を請求する。
次に、原告松下恵美子は、本件の衝突事故により胸部打撲症を蒙り、現場から姫路赤十字病院に運ばれ、治療を受け、治療費四、一九四円の出損を余儀なくされた。また、同原告は、右事故当時萩之茶屋内職会(大阪市西成区曳船町一一番地)に勤務し、月収一七、〇〇〇円の支給を得ていたが、右負傷のため昭和四〇年一〇月一〇日から昭和四一年三月三〇日まで欠勤のやむなきに至つたので、九七、〇〇〇円の収入減となつた。なお、同原告が以上により蒙つた精神上の損害を償うためには、一〇〇、〇〇〇円をもつて相当とすべきである。よつて、被告らから同原告に対し、各自、以上の合計額二〇一、一九四円とこれに対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定率による遅延損害金を支払うべき旨を請求する。
なお、被告らは、本件衝突事故の発生につき原告松下徳治の側にも過失があつたと主張するが、右主張事実は、これを否認する。同原告は、家族が同乗していたことでもあり、慎重に運転をしていた。問題の交差点に入る前にも一旦停止している。したがつて、被告らの過失相殺の主張は、理由がないものである。」
被告らは、これに対し、次のとおり述べた。
「本件衝突事故が被告焼山善生の過失に基くものであるとの原告らの主張事実は、これを否認する。同被告は、本件衝突地点たる交差点に接近するに先だち、停車中のバスを追い越した関係上、若干道路中央線より右にはみ出して進路をとり――このこと自体は、交通法規の違反でない(道路交通法第一七条参照)。――毎時約三〇キロメートルの速度で北進し、斜左方の横関橋上を原告松下徳治の運転車が東進中であるのを認めた。しかし、同被告の進路の方が同原告のそれよりも幅員が広く、したがつて、交通法規上同被告の方に優先順位が認められているので、同被告としては、同原告が交差点に進入する前に徐行してくれるものと思つていた。しかるに、同原告は、全く減速措置を講ずることなく交差点内に突入する気配であつたので、同被告は、急制動の措置を講じたが、間に合はず、約九メートルのスリップ痕を残して、同原告の運転車と衝突してしまつたのである。いわゆる信頼の原則によれば、同被告には相手の車が交通法規に反して同交差点に突入して来るかもしれぬことまで予想して運行せねばならぬ注意義務がなかつたものといえる。右の次第で、被告には過失がなく、右衝突事故につき不法行為者として賠償責任を負ういわれがないものである。
また、被告岩田熊夫は、被告焼山の運転していた自動車の運行供用者であるが、同被告の自動車運転については十分監督しており、事故の発生については、後述のとおり被害者の側に過失があり、自動車に構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、やはり右事故につき損害賠償義務を負うべきでない。
かりに被告らにおいて幾分かの損害賠償責任を免れないとしても、後述のとおり、本件事故の発生については原告らの側にも相当の過失があるから、この点を斟酌して、賠償額を定むべきものである。
なお、原告らが本件衝突事故によつて蒙つた損害として主張する事実は、原告徳治の治療費を除き、すべてこれを争う。原告らが本訴提起前被告らに要求していた額が七五〇、〇〇〇円に満たなかつたことは、本訴請求が過大であることを物語るものである。原告恵美子は、本件事故によつて軽傷しか負つておらず、日赤病院では原告徳治の看護をしており、五〇日も休業したとは到底信ずることができない。診断書によれば、先天性心臓弁膜症でもあつたというのであり、その治療費として計上しているところは、不当である。原告徳治が自動車の損傷による損害と称している四五〇、〇〇〇円は、昭和三九年における買入価額にすぎない。原告らが慰藉料として請求している額も、過大に失する。」
被告岩田熊夫は、反訴として、昭和四三年一〇月一五日原告松下徳治に送達された訴状に基き、
「原告松下徳治は、被告岩田熊夫に対し、金一四七、〇〇〇円とこれに対する昭和四三年一〇月一六日から完済に至るまで年五分の率による金員を支払え。」
との判決と仮執行の宣言を求める旨申し立て、
次のとおり述べた。
「本件の衝突事故は、原告らが早朝大阪を出て書写山への観光ドライブの帰途において惹起したものである。原告松下徳治は、下山後長時間の運転と観光のためかなり疲労しており、空腹のためパンを喰いながら自動車を運転し、横関橋を渡る途中で、被告焼山善生の運転する自動車が北進接近中であるのを斜右方に認めながら、その目測を誤り、そのまま進行すれば無事にその前面を横切つた上右折し得るものと軽信し、同被告の進路の方が幅員が大で、優先順位があることも無視し、交差点の前で減速措置も講ずることなく、毎時約三〇キロメートルの速度のまま進行し続け、その運転車の右側面を同被告の運転する被告岩田熊夫の所有自動車の前面に衝突させたのであつて、その運転上の過失は、これを動かすことができない。被告岩田は、右衝突事故により、自己の自動車の右フエンダー、右ライト、右側ガラス、前バンバー、運転席が破損し、その修理代金一四七、〇〇〇円相当の損害を蒙つた。よつて、原告徳治に対し、右損害額とこれに対する反訴状送達の日の翌日以降の民法所定率による遅延損害金の支払を請求する。」
原告松下徳治は、これに対し、次のとおり述べた。
「本件衝突事故につき原告松下に過失のないことは、前に述べたとおりである。なお、右事故により被告岩田熊夫の損害として主張する額は、過大である。同被告の所有車は、中古車であり、その年式等からして、その主張額の修繕費を出捐する実益のあるものとは思えない。」
〔証拠関係略〕
理由
原告両名の本訴請求および被告岩田熊夫の反訴請求は、それぞれ一部につき理由がある。
昭和四〇年一〇月一〇日午後三時頃、姫路市書写横関一、一五九番地先、横関橋東詰道路交差点において、この橋を西から東に渡り切つて右折南進しようとした原告松下徳治運転、原告松下恵美子同乗の普通乗用自動車の右側面と、この交差点に向い北進して来た被告岩田熊夫所有、被告焼山善生運転の普通貨物自動車の前部とが衝突したことは、当事者間に争がない。
次に、〔証拠略〕によれば、本件衝突事故が発生した交差点とその附近の地形は、おおむね別紙添付図面記載のとおりであるところ、
(1) 被告焼山善生は、右事故発生に先だち、問題の交差点の南端まで十数メートルの地点の停車中のバスの右側(東側)を北進したのであるが、その地点までは人家等の関係で左前方の横関橋方向に対する見透しが良好でなかつたし、該交差点では交通整理が行われていないことも早くからわかつていたはずであるから、この橋の上を東進して交差点内に進入して来る車両があるかもしれないことに思いを致し、できるだけ減速して交差点に接近すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、原告松下徳治の運転車が横関橋上を交差点に向い東進して来るのを認めてからも、同車が交差点前で一時停止ないし徐行して同被告の運転車に進路を譲つてくれるものと軽信し、暫時漫然と毎時約三五キロメートルの速度を維持して進行し続けたため、予期に反し、相手方車が従前の速度を維持して自己の運転車の前面を横断しかけたのを認め急制動の措置を講じたときは、すでにおそく、衝突を避けることができなかつたものであること、
(2) また、原告松下徳治も、横関橋上を東進した際、右前方の道路上に対する見透しが良好でなかつたし、右交差点では交通整理が行われていないことも早くからはつきりしていたはずであるから北進車との衝突を避けるためには、右前方に対する注視を厳にし交差点の前では当然一時停止ないし徐行すべき注意義務があるにもかかわらず、右前方から交差点に接近して来た被告焼山の運転車の存在に気付いていたかどうか判然としないが、ともかく全然一時停止も徐行もしないで右相手方車の直近前面を横断するように進行し続けたものであること
が認められる。〔証拠略〕中上記認定に符合しない部分は、これを信用することができない。
以上認定事実によれば、本件衝突事故は、被告焼山善生の自動車運転上の過失が他の原因と相俟つてこれを発生させる原因となつたというべきであり、その結果原告らに下記認定の損害が生じたものであるから、同被告は、不法行為者としてその損害を賠償する責に任ずべきことが明らかである。さらに、被告岩田熊夫は、自営の建築材料販売業務のため右加害自動車を運行の用に供していたものであり、また、被告焼山は、被告岩田に雇われ、同被告の業務の執行として右自動車を運転していたものであることは、当事者間に争がないところであるから、被告岩田もまた、自動車損害賠償保障法第三条、民法第七一五条により、本件衝突事故に基く原告らの損害を賠償する責に任ずべきものであり、両者の賠償責任は、いわゆる不真正連帯関係に立つものというべきである。被告岩田は、自動車損害賠償保障法第三条但書所定の免責事由があると主張するが、すでに運転者たる被告焼山の過失を否定し得ない以上、右主張は、これを排斥するのほかはないものである。
本件衝突事故に基く原告松下徳治の損害、ならびに、その認定の根拠は、次のとおりである。
(一) 頭蓋骨々折、肋骨々折兼気胸の傷害を蒙り、その治療のために出損した額二九、三五八円。
この点は当事者間に争がない。
(二) 付添婦に支払わねばならなかつた費用
〔証拠略〕によれば、少くとも原告の主張する一〇二、〇〇〇円の余儀ない出費の事実を認定することができる。
(三) その他入院中の諸経費
〔証拠略〕によれば、同原告は、その入院治療期間(昭和四〇年一〇月一〇日から同年一一月二七日まで)において、栄養剤七、九〇〇円を購入したほか、各種雑費の支出をしたことが認められるが、その内容、金額、本件事故との因果関係は、証拠上瞹眛たるを否むことができず、当裁判所は、通常の入院治療の事例からして、一日平均、四〇〇円、合計一九、六〇〇円の限度において本件事故を原因とする余分の出費額を肯認すべきものと考える。
(四) 休業による収入減
〔証拠略〕によれば、同原告は、本件事故当時外峰金属株式会社に勤務して日給一、二〇〇円を得ていたところ、右事故当初医師により入院加療期間三箇月を要すると診断され、現実には、前記のとおり昭和四〇年一〇月一〇日から同年一一月二七日まで入院しており、昭和四一年五月頃に至つて自覚症状がなくなつたことが認められる。以上の認定事実によれば、同原告が本件事故による負傷の結果休業した日数は、少なくとも一〇〇日であると推認すべきであり、これによる収入減少額は、一二〇、〇〇〇円と計算される。
(五) 自動車の破損による損害
〔証拠略〕によれば、同原告が昭和三九年一二月二三日に四五〇、〇〇〇円で購入した自動車が本件衝突事故によつて修理不能の程度にまで大破したことが認められる。右認定事実によれば、これに基く原告の損害は、購入後の減価償却の点を考慮に入れ、三〇〇、〇〇〇円と推認すべきものである。
(六) 慰藉料
上記諸般の事情によれば、同原告が本件事故によつて受けた肉体的苦痛その他の精神上の損害を慰藉すべき額は、四〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認定すべきである。
そこで、以上の損害額を合計すると、九七〇、九五八円になるが、同原告は、本件事故により自動車損害賠償保険金二二〇、七八〇円を受領していることが当事者間に争がないから、この分を控除すると、七五〇、一七八円になる。しかしながら、さきに認定した事実によれば、本件事故の発生は、同原告自身の自動車運転上の過失もその原因をなしたものというべきであるから、この点を斟酌し、右金額に五割の減少を施して、三七五、〇八九円を被告らの賠償額と定めることとする。
してみれば、被告らは、各自、原告松下徳治に対し、右三七五、〇八九円とこれに対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定率による遅延損害金を支払う義務を負うものであり、同原告の請求は、右の義務の履行を求めている限度において理由があるから、これを認容するが、その余の請求は、理由がないから、棄却を免れない。
次に、原告松下恵美子も本件衝突事故により負傷したことは、当事者間に争がなく、なお、原本の存在と〔証拠略〕によれば、同原告が本件事故による財産上および精神上の損害として主張する事実は、すべてこれを肯認することができる。すなわち、右の損害額は、同原告の主張どおり合計二〇一、一九四円と認定すべきであるが、右各供述によれば、本件の事故は、同原告が夫たる原告徳治の運転車に同乗し、共に観光旅行に赴いた帰途において生じたものであることが認められ、かつ、右事故の発生には原告徳治の自動車運転上の過失も原因として作用していることは、上述のとおりであるから、被告らの原告恵美子に対する賠償額を定めるについても、右の事情を斟酌し、前記損害額に五割の減少を施して、一〇〇、五九七円と算定すべきものである。
してみれば、被告らは、各自、原告松下恵美子に対し、右一〇〇、五九七円とこれに対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定率による遅延損害金を支払う義務を負うものであり、同原告の請求は、右の義務の履行を求めている限度において理由があるから、これを認容するが、その余の請求は、理由がないから、棄却を免れない。
次に、被告岩田熊夫の反訴について、本件の衝突事故によつて同被告の所有貨物自動車が損傷したことは、当事者間に争がなく、右事故の発生が原告松下徳治の過失を原因とすることも、前に判示したとおりである。しかるところ、〔証拠略〕によれば、右自動車は、同被告が昭和四〇年五月二九日に二八〇、〇〇〇円で購入したものであるが、本件事故による損傷の結果、購入先の業者から修理に一四七、〇〇〇円を要すると見積られたまま、同被告において修理の注文をなすことなく、もとの購入先に下取してもらつたことが認められるが、その下取価額は、証拠上判然としない。以上の認定事実によれば、右自動車の本件事故による価値の減少は、一〇〇、〇〇〇円と推認すべきであり、これが同被告の損害額になるものと考えられる。しかし、前に判示したとおり、右事故の発生は、同被告自身の自動車運転上の過失もその原因をなしたものというべきであるから、この点を斟酌し、右損害額に五割の減少を施して、五〇、〇〇〇円を右原告の賠償額と定めることとする。
してみれば、原告松下徳治は、被告岩田熊夫に対し、右五〇、〇〇〇円とこれに対する反訴状送達の日の翌日以降の民法所定率による遅延損害金を支払う義務を負うものであり、同被告の請求は、右の義務の履行を求めている限度において理由があるから、これを認容するが、その余の請求は、理由がないから、棄却を免れない。
以上の理由により、なお、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項但書を適用し、当事者双方の仮執行の宣言の申立を不相当と認めて許さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 戸根住夫)
<省略>